3・すれ違い





「へー、これが機材なんだ・・・」
「そう!それでこれが参考書なの、でねこの大きなナベが・・・あー、失敗した後だから灰色して
るけど、で、あの子が妖精さんのパッチ」
「僕パッチだよお!」
「そんでね、ベッドとかは二階にあるんだけどこの階段がかなりきしむんだ、ちょっと怖いけ
ど・・・でねでね、見て!これがつい最近作り上げた賢者の石なんだ!もうちょっとで金が出来
るんだよ」

「エリー、君は随分と成長したようだね・・・」
「・・・そういえばさっきから私ばっか話してるけどフェズは?どうしてザールブルグにいるの?」
するとフェズはエリーの目をじっと見て言った。

「君を守るためだよ、エリー」

エルフィールは不意に甘い声でささやかれて戸惑った。
「私を・・・守るため?」
ザールブルグの聖騎士団に入ることになったんだ」

「――――――    
 えっ?」

エルフィールは昼間のダグラスと国王の話を思い出した。
『お前と同じロブソン村から来たって言うんだよ』
『うむ、それが武闘大会に出場しおって・・・』

――――武闘大会 

「やっと思い出してくれたのかな、僕のこと」
「フェズ・・・あなたもしかして武闘大会で・・・」
「うっかり出てみたらうっかり優勝しちゃってね、でも・・・あの隊長。なんだっけダグラスだっけ、
あの人そんなに強くなかったんだよ。前にいたエンデルクさんって言う人は随分強いって聞い
てたけど・・・」
「フェズ・・・」
「エリーがあんな男に護衛されてるなんて信じられないよ、だから今度は僕がエリーを守って見
せる」

エルフィールは胸の奥から怒りが込み上げてくるのが分かった。

しかし

何も言えなかった。その理由はこのフェズ  幼なじみという関係にあった。
フェズはエルフィールよりも1つ年上でロブソン村に住んでいた。おっちょこちょいなエルフィー
ルを支えていたのはいつもフェズで、いわば小さいころからの友達、幼なじみなのだ。

しかしエルフィールも錬金術の勉強でそんなことは忘れていた。しかもフェズは髪も身長も伸び
ていたため気が付かなかったのだろう。
ましてや武闘大会の時など遠目で見えるはずがない。
それに久々に再会した相手にいきなり怒ってみせる勇気などない。

それでなくてもエルフィールは昼間、ダグラスにあたったばかりなのだから。

「でもねフェズ、ダグラスはいい人だよ。おっちょこちょいな私をいつも支えてくれて・・・」
するとフェズは一生懸命怒りをこらえようとして震えるエルフィールの肩にポンと手を置いた。

「もう随分暗くなったけど・・・今日はここに泊まって良いかな?」

「えっ」
「別に変なことはしないよ。それに明日になれば聖騎士団の仮の寮に戻るしね。今からお城に
帰ったら気まずいだろう?それにダグラス隊長とも顔、会わせずらいし・・・駄目かな?」

エルフィールは『ダグラス』という言葉に反応した。そして肩に置かれたフェズの手を振り払うよ
うにして体の向を変え、言った。

「うん、いいよ。ちょっとガッシュの枝が臭いかもしれないけど・・・2階までは匂ってこないから」

「2階?」

「うん。あたしは勉強があるから1階で寝るよ。フェズは上のベッドで寝て。」
「そんな、エリーに悪いよ。僕が勝手に泊めさせてくれって言ったんだから・・・自分は1階で寝る
よ」
「いいの、フェズちゃん。ホラ、お店の依頼だってまだ残ってるし・・・」「じゃあ僕も1階で寝るよ。
それじゃあ駄目かい、エリー」

駄目っ!という理由は  疲れ果てたエルフィールの頭には浮かばなかった。
そしてしかたなくうえから毛布を持って来てフェズに渡す。

「ホントに良いの?私、ガチャガチャうるさいと思うよ?」
「別に構わないよ。むしろエリーの立派な錬金術士の、見てみたいしね。ホラ、エリーはもう僕
の闘う姿を見ただろう?今度はエリーの番だ」

闘う姿  
それは友達であるダグラスを打ちのめした姿。
友達?
そう、友達・・・。

だけどアイゼルやノルディスなんかとは違う、友達。


「ねえ、フェズちゃんはどうしてザールブルグの武闘大会に出たいなんて思ったの?」

フェズは落ち着いた声で言った。

「言ったじゃないか、エリーを守りたいからだよ。噂は聞いてたんだ。あのアカデミーから2人、
有能な錬金術士がうまれたと。一人はマルローネさん。そしてもうひとりは・・・
君だよ、エリー」

「えっ私 」

マルローネさんは十分わかるんだけど・・・まさか私だなんて。でも考えてみたら最高のアイテム
『賢者の石』は作っちゃったし『金』だってもう作れる。
アイテム図鑑だってもうすぐ埋まっちゃうし、なによりマイスターランクにいけた。

それだけで満足してたのに・・・まさか私がマルローネさんと同じ立場になれるとは・・・ううん、で
も得意になっちゃ駄目。わたしなんかりマルローネさんは遥か高い地位にいる人だ。そんな人
と私が同じだなんて考えちゃ駄目よ、エルフィール。

自分に言い聞かせながら『疾風の竹笛』の作成に取りかかる。あとは研磨材で磨くだけ・・・

「自分のあこがれの人だったんだ、エンデルクさんは。いつか武闘大会で決戦してみようと思っ
てた。だから強くなってザールブルグに来たんだ。だけど武闘大会で決戦したのはエンデルク
さんじゃなかった。

あんな人がエリーを守ってるなんて・・・到底考えられない。
あんな人なんかより自分の方がエリーを守る資格があるんだ、ね、エリー。
僕なら賃金なんて要らない。あの男にいくら払ってるか知らないけど、僕だったら旅は安全だろ
う?
見たじゃないか、武闘大会を。あれでわかったと思うんだけどなあ・・・エリー」

「フェズちゃん・・・気持ちはうれしいけど・・・ダグラスさんはもうとっくに自分から賃金を受け取る
のをやめてくれてるの。それに5年間ずっと一緒だったし・・・だからいまさらフェズちゃんに変え
るなんて出来ないよ・・・」

手は疾風の竹笛を磨いているものの心はどこかに飛んでるみたいだった。
昼間のダグラスに対して取った行動をいまさら悔いるなんて・・・いわなきゃよかったのかも。自
分にとっては慰めの言葉を言ったつもりだったのに。

「そう、エリーはあの男のこと信頼してるんだ。あんなに弱いのに?」
「弱いだなんて・・・ダグラスは聖騎士団の隊長だよ・・・。やっぱりそう言うだけの力もレベルもあ
るよ。あの日はたまたま体調が悪かったんだよ」

一生懸命フォローしている自分が情けなくなって来た。エルフィールはひとつあくびをしてから
作り終えた疾風の竹笛を机の上において毛布を取った。

「もう寝よう?思い出話はいつでも出来るよ・・・」
「うん、そうだね。おやすみエリー」

電気を静かに消してエルフィールも毛布にくるまった。遠くから聞こえるフクロウの鳴き声や時
計の音、妖精さんたちの小さな小さな寝息がエルフィールの耳に入る。なんて静かな夜なんだ
ろう・・・いつもとは違う感情を抱いて、エルフィールは眠った。



その事件は翌日、雨の降る日に起きた。

ピピピピ・・・ピピピピピ・・・
工房中に目覚ましの音が聞こえる。エルフィールは無意識のうちに目覚まし時計を手で止め、
また毛布にくるんだ。

「・・・ん、エリー?起きないと駄目なんじゃ・・・エリー」
「うぅ・・・ん、眠いぃ」
「エリー」
と、その時

コンコン

工房のドアをノックする音が聞こえる。エルフィールはその音を聞きながら再び深い眠りに入っ
た。
フェズはどうしようかと迷っていたが、玄関においてあったエルフィール作の木鶏を見た瞬間、
(どういう仕組みだ??)
ドアを開けた。

「よお、エルフィール、昨日は悪かったな。お前に・・・」
「おはようございます、ダグラス隊長?」

不意にエルフィールとは違う声がしてダグラスは顔を上げた。

「・・・誰だ?なんでエルフィールの工房にいる?」
「自分はフェズ・メナーテ。今年、新しく聖騎士団に入る者です」
「フェズ・・・あっ、お前は」

するとフェズはフフ、とダグラスに不敵に笑ってみせた。

「武闘大会では失礼しました。一応手加減したつもりだったのですが・・・隊長」

ダグラスはフェズの口から出たイヤミを、ぎゅっとこらえて無視した。

「お前、一体なんで武闘大会に出場した 」
「隊長と同じですよ」
「なに?」
「大切なものを守るため・・・エリーをですね」
「エルフィール?」

ダグラスはなぜこの男がこの工房にいてエルフィールのことをエリーと呼び、
自分に対してこんなに敵意を持っているかがいまいち分からなかった。だが  

「んー、何をしゃべってるのお・・・」
二人の会話を聞いてエルフィールがぼんやりした目で起きてきた。
「あ、おはようエリー、昨日はごめんね。突然泊めてもらっちゃって」
「と、泊めた 」
「ううん・・・別にィ・・・だって幼なじみだし・・・」
「お、幼なじみ 」
「そうだね、あっ、エリー。よたよたしてるじゃないか。駄目だよホラ」

そう言ってフェズはダグラスの目の前でよろけたエルフィールを抱き抱えた。
「隊長、これからよろしくお願いしますね。今日から寮に移るつもりですから。じゃあまたあとで」

ニコリと笑ったフェズはそう言うとドアをバタンと閉める。エルフィールは最後までフェズの腕の
中でよたよたしたままだった。

「エルフィール・・・」

ダグラスは予想もしなかった出来事に呆然としながら工房の前に立ちつくしていた。
近所ではパン屋がせっせと支度をしているのが目につく。だがダグラスはそれさえも気にする
事なく、ただただ工房の看板を見つめるばかりであった。

「幼なじみ・・・エルフィールの幼なじみが自分の敵・・・?」






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