1・強いって・・・





今日はなーんと!あの武闘大会の日なのです。
「がんばってねぇ」
「お、お前。そんなひとごとみたいに・・・」
「だってひとごとじゃない」

開場の前で変な会話をしているのはご存じ、ほや〜んとしたエルフィールと有能(?)な聖騎士、
ダグラスであった。エンデルク様が旅に出てしまってから、ダグラスが聖騎士団の隊長になっ
た訳だが・・・どうも自覚がないらしい。

「ウーン、隊長になるのは夢だったけど・・・プレッシャーが・・・」
「大丈夫よ!多分」
励ましてくれるはずのエルフィールもどこか不安げな表情だ。
「・・・そうだな!多分ハレッシュさんと闘うことになると思うけど・・楽勝だよな!」
「一緒に護衛してもらってるけどね」
「・・・」

どうしてコイツはいつもこう・・・
悪気はないと思うんだけど、なんだか最近マルローネさんに似てきたのでは?

「じゃあ私は観客席の方行ってるからね」
告白してもどーもスカされそうで怖い。そう、ダグラス・マクレイン21歳、エリーと出会って2年
目。俺は今だに告白ができずにいる。理由はエリーのペースに巻き込まれているせいだ。エリ
ー本人、のほほんとした性格もあるが、それ以外にあいつを取り巻く環境・・・そう、アカデミー
の連中がどうも苦手なのだ。
ゆったりとしたマント・・・いかにもひ弱そうなあの体つき。
俺のお陰でなんとかあいつも力をつけてきたものの、あいつの友達は魔法ばっか使いやがる
し敵から殴られただけですぐブッ倒れる・・・。
錬金術士っていうもの自体うさん臭くていやなんだよな。あいつは特別だけど。

「あらエルフィールじゃない」
向こうから静かにやってきたのはエルフィールの友達(?)のアイゼルだった。

「アイゼル!珍しいね、こんなところに来るなんて」
「嫌ねぇ、私だけで来るわけないじゃない」
と、アイゼルがちょっと体を動かすと、後ろにはノルディスが立って手を振っていた。

っつーかこいつら苦手なんだよな・・・

「ノルディスが誘ったの?」
「ち 違うよエリー、アイゼルに誘われたんだよ」
するとアイゼルは急にノルディスの方を向いて言った。
「ちょっとノルディス、あなたが誘ったって事にしておいてって言ったじゃない!」
「えっ?えっ?」 「私はノルディスに付き合ってるのよ」
アイゼルはすました顔で言いながら向き直った。

「どっちでもいいけど・・・なんで武闘大会に?野蛮なモノはすきじゃなかったんじゃ」
「まあね、でも今年からダグラスさんが隊長になったでしょう?お手並み拝見ってやつね」
イヤミか・・・?くっそう、エンデルク様に勝ったのはまぐれだと言いたいのか 
「ふぅん。なるほど」

エルフィールもうなづくんじゃねえ!

「とにかく俺は行ってくるからな。ちゃんとこの勇姿を見てろよ」
「はいはい、行ってらっしゃい」
 
ダグラスが消え、しばらくたってからアイゼルが尋ねた。

「・・・・ねぇエルフィール、今の人誰?」
「ええっ 知らなかったの!あれが隊長のダグラスじゃない」
「えええっ 何で知ってんのよ、しかも親しそうだったわよ!」
「そりゃあ・・・」

アイゼルが興味深そうに顔をのぞき込んだ。
「もしかして、恋人?」

「なあっ、なに言ってるのぉぉ、ダグラスはいつも護衛してくれてる人よっ」
「ああ、そうなの?つまらないわね」

今度はエルフィールが不思議そうな顔でアイゼルを見た。

「アイゼルってそういうのに興味有るんだ?」
「ばかね・・・。あなたが恋愛に溺れれば錬金術士として失格だってことを言おうと思っただけ。
でも何でもないんだったら別に良いわ。ま、恋愛に溺れても今のままでもそのトロいおつむは
変わらないでしょうけど」
相変わらずエルフィールに冷たい態度をとってしまうアイゼルであった。

「ここらへんでいい?見える?」

ノルディスが二人を気遣って席を探し出した。
「あっ、ノルディスこそちゃんと見えるの?」
「僕は大丈夫だよ」
アイゼルとノルディスのやり取りを見ながらエルフィールはふふふとほほ笑んだ。
アイゼルとノルディスはつい先日、クリスマスを一緒に過ごしたらしい
  そう!二人はすでにそんな仲までいってるのだ。でもアイゼルがキッパリ『好き』って言わな
いから、まだ『おともだち』なんだって。
それに一緒に過ごしたっていっても勉強だけで終わっちゃったって言うし。

私はね、酒場でみんなと騒いでたんだ。
そうそう、ハレッシュさんが一気飲みを始めちゃって、クーゲルさんが倒れたハレッシュさんを2
階に運んでたなぁ。・・・重そうだった。
ロマージュさんもいつもより素敵な踊りを披露してくれたし。・・・と、そんなこと思い出してる場合
じゃなかった!

いつのまにかもう準決勝までいってる。やっぱりハレッシュさんが  あれっ?

エルフィールの目に見たことのない人物が飛び込んできた。

長い銀の髪を後ろでゆったりと結んでいる・・・つけている鎧と浅葱色のマントはザールブルグ
でもカスターニェでも見かけないもの。

刀のようなやっぱり見かけない武器をハレッシュさんに向けて構えている。

当のハレッシュさんはというと見慣れない異国の男に少々戸惑っている様子だ。会場の観客も
ちょうどそれに気が付いたらしくざわめき始めた。
 
 一体誰なんだろう・・・

「アイゼル、あの人誰だろう?ザールブルグじゃ見かけないし騎士団でもなさそうだね」
「そうね・・・盗賊じゃなさそうだし」

二人もエルフィールが考えていることと同じことで会話している。

そして闘いが始まった。

ハレッシュさんは必殺技を巧みに使って見ず知らずの相手に勇敢と立ち向かう。
しかしその刃を向けている相手はすばやく動き、その必殺技をかわしていく。
さらさらと揺れる銀髪がマントと同調していて美しい。

「ハレッシュさんが押されてるわ、どういうこと?」

アイゼルがそっと耳打ちした言葉にエルフィールは無言でうなづく。

  そう、そうなのよ。いつも盗賊やらを一発で倒してきたハレッシュさんがダグラス以外でこん
なに苦戦してるなんて!

『絶対勝って見せる』
フレアさんにそう約束したのに!どうしちゃったの 

見た事ないその男は攻撃をしない。防御もしない。
ただハレッシュさんの攻撃から逃げ続けているだけだ。これが戦略なんだろうか。
エルフィールが案じたとおりハレッシュさんにだんだん疲労の色が見え始める。
よろめきが激しくなり、表情もうつろだ。ハラハラしながら観客が見守っていたそのとき  

「うっ 」

見ず知らずの男の刀の先がハレッシュさんの喉を指した。
ハレッシュさんはその刀が自分の喉を貫きそうな場所にあると知ったとき、不意に手から剣を
落とした。

「失格!」

審判の声が会場全体に広がった。ここの武闘大会のルールの一つ、
『武器を落としたら負け』を相手は使ったのだ。
 

「何者なのよ、あの男」

アイゼルがぼうぜんとする中、私は少し外に出ることにした。今ならまだダグラスが待機してい
るはずだ。そう思って観客席のドアを開けたそのとき・・・

「あっ、エルフィール」
「ハレッシュさん!」

ぶつかりそうになりつつも顔を上げる。
「大丈夫でしたか ケガは・・・」
「いや、ないよ。自分の不注意だからね」
「・・・」
「にしても驚いた。あの男・・・いや、名前は知らないんだがすごい目だ」
「目ですか?」

すごい強さだー・・・ならわかるがすごい目だ、なんて聞いたことがない。

「本当は刀の先が喉に当たっているとわかってもうまく逃げられるはずなんだけどね、逃げよう
としたその時、あの男と目が合ってジッと睨まれて。急に身動きができなくなって硬直してしまっ
たんだ。そう、何かの魔力にとりつかれたみたいな」

「魔力ですか?錬金術士でもないのに?」

「うーん、どうだろうね。それは本人に聞かないと分からない・・・
でももしかしたらどこかの国の強い奴が興味本位で参加しただけかもしれない。
あまり追求することもないだろう。それにホラ、聖騎士団隊長がいるし」

ダグラスねぇ・・・大丈夫かな?私が知ってる限りではダグラスが倒した一番強い敵ってのはヘ
ウレンの森の吸血鬼なんだけどなぁ。っつーかアレ弱いしなぁ・・・。

 エルフィールはダグラスの元へ行こうかと思ったが、言って何か口走ってまったらダグラスが
プレッシャーに負けそうな気がする。あれでいて結構繊細なのだ。(↑ウソ )後で負けたときに
『お前があのときあんなこと言ったから〜!』なんて言われては困る。だからエルフィールはダ
グラスに話しかけずに観客席へと向かうことに決めた。

「いやぁ、恥ずかしいところを見せてしまったなぁ・・・フレアさん来てくれるって言ってたけど・・・ホ
ントに恥ずかしい」
「やっぱり来てるんですか?」
「うん・・・あ、いや、べつに変な意味じゃなくて、その、なんとゆうか」
「はあ」
「うん、そういうことだ、じゃ」

ハレッシュさんが照れた様子でそそくさと後ろを向いた。

「えっ あ、この先見ないんですか?」
「いや、隊長を信じて今日は帰ることにするよ」

ハレッシュさんはそのまま走って、やがてエルフィールの目の前からいなくなった。

「行っちゃったぁ・・・」
と、エルフィールの耳に決勝戦を始めるアナウンスが聞こえてきた。
急いで観客席に戻るとアイゼルが早く早くと小声で言いながら手招きしていた。

そして席に着いてしばらくたったころ、決勝戦が始まった。
「がんばって、ダグラス・・・」
エルフィールは不安を打ち消すように目をつぶっていた。
ハレッシュさんも会場にいる観客たちもきっと隊長の勝利を望んでいる。だけどダグラスは見
ず知らずの男と闘うことになってしまった。ハレッシュ戦で見せたあの余裕の動きはダグラスと
の闘いにどう影響を与えるのだろう。

そして   
「だあっ」
ダグラスが一発、相手の肩を目がけて剣を振りかぶった。しかしハレッシュさんと同様、男はい
とも簡単にそれをかわす。

ダグラスはよろけそうになりながら奮い立ってまた振りかぶる。浅葱色のマントと銀色の髪を静
かになびかせて男はまたもやそれをかわした。

「ああーっ、もう見ててはがゆいわねッ」
「アイゼル落ち着いて・・・」
ノルディスがゆったりとした声でアイゼルをなだめる。

「だって聖騎士団隊長があんな事でどーするのよッ」

(アイゼルがこんなふうに怒るなんて珍しいなぁ)
「エルフィール、あなたあの人の知り合いなんでしょ?だったら応援してあげなさいよ!」

アイゼルがすごいめつきでエルフィールを睨みつける。

「えええっ?大丈夫だよお、観客のみんながこんなに熱く応援してくれてるんだから」
「そうだけど・・・あなた、けっこう冷たいのね?」

アイゼルには言われたくない・・・けど最近のアイゼルはノルディスにお熱のせいで結構優し
い。そりゃー、たまには冷たいけどね。

「ホラ、あなたも立ちなさい」
「わ、わかったよお」

無理やり腕を掴まれておろおろしながらエルフィールは立ち上がった。
立ち上がるとダグラスと男の決戦がよくうかがえる。しかしダグラスはまるで空気を斬っている
かのように剣を振り回している。なんだか見ていて情けない。

「ダグラスーーっ!ちゃんと勝ってよおーーーーーーっ」

思わず声が出てしまった自分にハッとしながらエルフィールは手で口を隠した。ダグラスは
『えっ?』と思いながらエルフィールの人3倍は通る声を聞いていた。そのぼおっとした瞬間で
ある。

「君に負けるわけにはいかないんでね」

ダグラスの耳にそんな言葉が入ってきた。
『どういうことだ?』
と思う暇も無く、気づいたときにはダグラスの腕を刀が貫いていた。







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