2・再会





翌日のザールブルグにはこんなウワサが立っていた。

『もう隊長交代か?』

エルフィールは酒場に依頼を持って行く途中の道でそんなウワサを聞いたのだ。何か言ってや
ろうかと思ったが今日が依頼の期限だったのでは早く持って行かなくてはディオさんにまた怒ら
れてしまう。
ダグラスのいる城の寮に行くのはその後で十分だろう。
そう思って急いで飛翔亭に向かう。

「こんにちはー!」

心とは裏腹の明るいあいさつをして酒場のドアをあけると最初に目に付いたのはカウンターに
いるフレアさんの姿だった。

「あら、こんにちはエリーちゃん。仕事は終わったかしら?」
「ええ。栄養剤3個でしたよね」

エルフィールは担いでいた雑嚢袋から栄養剤を取り出してカウンターの上に置いた。

「あら・・・すごくいいじゃないコレ」

栄養剤を手にとってフレアさんはほほ笑んだ。

「はい、ブレンド調合で効力をAにしたんです」
「そうなの。じゃあ報酬金は少し多くしておくわね」
エルフィールに銀貨を多めに渡すとフレアさんは急に不安げな顔をして言った。

「父が言ってたんだけど・・・ダグラスさん、優勝できなかったんですって?ホント?」
「・・・はい。そうなんです・・・。街では隊長交代まで騒がれてて・・・」
「そう・・・あの人、ハレッシュさんも言ってたの。まさか隊長が負けるわけないと・・・信じたくない
のね」
「あの人、誰なんでしょう。フレアさん、見たことありますか?わたしよりずっと前からここに住ん
でるし・・・」

しかしフレアさんは首を横に振った。

「わたしも知らないの。武闘大会で見るまでは・・・でもすごい素早いのね。盗賊さんより・・・」

エルフィールは珍しく人っ気のない飛翔亭を見ながらため息をついた。

「ハレッシュさんは自分が負けたことに傷ついてるんじゃないの。ダグラスさんが誰だか知らな
い男に負けてしまったことに対して傷ついてるのよ
・・・ねえエリーちゃん。よかったら・・・ダグラスさんを慰めてあげられないかしら。わたしも一日も
早く飛翔亭に戻ってきてほしいと思うし」
「フレアさん・・・」
もちろんそのつもりだった。
ダグラスが元気になればきっとハレッシュさんも元気になる・・・。
そしてわたしも元気になる。
だから行こう、お城の寮へ。


「どうぞおはいりください」

前までダグラスが立っていた位置には別の若い騎士がいる。
以前はお城をひょっこりのぞけばすぐそこにダグラスがいたのだけど・・・そう思うとなんだか遠
い存在になってしまったようで嫌だった。

でもせっかくエンデルク様が隊長に命じてくれたんだもの。ダグラスはそれに相応しい隊長とし
ての役目を果たしてくれるのに。

街にはあんなうわさが立っちゃってきっとシグザール王もエンデルク様もこれを聞いたら心外に
思うに違いない。だからその落ち込んだダグラスをわたしが慰めてあげれば

"そんな噂が何だ!"
って持ち前の負けん気で跳ね返してくれるに違いない。

 若い騎士に導かれながら奥に行くと、そこにはダグラスの部屋がある。武闘大会のショックと
傷の治療をかねての休養期間でしばらくは部屋で安静にしていなければいけないらしい。
武器屋に行くと『腕がウズウズするんだよぉ!』といつも言っていたダグラスにとって何日も安
静にするって言うのはすごい窮屈なことだろうな。
きっと

『俺なら大丈夫だ、城の警備をするんだ!』
『ああ、隊長!』なーんて言ってたかも。

と、その前にシグザール王へ挨拶を言われたからしなくちゃね。ドアをあけるとそこには豪華な
イスに座った王様がいた。わたしがずんずん向かって行こうとすると向かって左側に立ってい
る金髪の女の子みたいな騎士がつぶやいた。

『ダグラス様・・・ 』

げげっ、この人一体いつから気が変わったんだろう まあエンデルク様はマルローネさんにとら
れちゃったからね。でも一体なぜダグラス・・・。

「おー、君は確かエルフィールだったね。今日はどうしたんだい?」
「ええ、ダグラス・・・隊長のお見舞いにと思って来て見たんですけど・・・あの、どうなんでしょう」
「ダグラス・・・、ホントに先日の武闘大会は残念だった。だがのう、隊長を変えるつもりはない
ぞ」

「えっ、知って・・・?」

「ふおっふおっふおっ、君が心配していたのはそういう事じゃろ?なに、あのエンデルクとわた
しが認めた男じゃ。一回の敗北ぐらいでクヨクヨするはずがない」
「そうですか・・・」

エルフィールが胸をなでおろしたその時、国王の口から意外な真実が飛び出た。

「しかしのぅ・・・あの武闘大会の男・・・」
「あっ、ハイ!」

「あの男はな、実は来年の1月、新しく聖騎士団に派遣されてくる男なのじゃ」
「えっ 」

エルフィールは一瞬、自分の耳がおかしくなったかと思った。

「あの人、新しい聖騎士団員なんですか 」
「うむ。それがイキナリ武闘大会に出場しおって・・・あんなに目立ってしまってのお・・・
いや、それはいいんじゃがダグラスと顔を合わせるのがつらくなるんじゃないかと思ってな・・・
何しろ隊長だからな・・・」

まさかそんな人とは思わなかった。ハレッシュさんが言ったとおりどこからかフラっとやってきて
またふらっとどこかに行ってしまうただの目立ちたがりやな人だと思っていたから・・・。

「それで今その人は・・・」
「一応城の空き寮に入ってもらってるんじゃ。来年になって正式に入隊式を行ってからちゃんと
した寮に入ってもらうつもりなんじゃが・・・」

エルフィールは呆然と立ち尽くしていた。
もしかして来年になって私が城にいくたび二人がいがみ合っているところを見るハメになるので
は・・・

いやいやそんなことを考えちゃいけない!
もしかしたらすごくいい人かもしれないじゃない。
もう笑顔でニッコリ、人気絶頂、隊長を抜かすほど格好良い・・・

ってそれじゃダグラスが可愛そうだわ、

ええと、あ、すごくいやな奴かもしれない!
『なんだよテメー』
みたいな感じで睨まれちゃって治安が悪くなってザールブルグが大変なことに・・・

なったらダグラスの責任になっちゃうじゃない!

あああ、もうどうして隊長って言うのはこんなにも面倒臭いものなのかなあ?

「大丈夫かね、エルフィール」
「ええっ?はい、大丈夫です。ダグラス隊長の見舞いに行ってきます・・・」
エルフィールは重い足取りでダグラスの部屋へと急いだ。

隊長の部屋はちょっと違う。まず大きな違いは普通の騎士の部屋は2人部屋だが隊長の部屋
は1人部屋だということ。

まあ、当然ね。

次に違うのはドアの模様。聖騎士団の鎧にもついている唐草模様のレベルが違うのだ。レベ
ルっていうか隊長の部屋のドアの唐草模様の方がもっと複雑で高級感があり、色も鮮やかな
のだ。
ちなみに普通の騎士の場合は淡い色をしている。

(さすが隊長だあ・・・やっぱり私とは程遠い存在・・・おっといけないいけない。なぐさめるんだっ
け)

エルフィールはドアをノックした。

「よし、がんばらなきゃ」
「誰だ?」

不意にドアの外から無愛想な声が聞こえてきた。エルフィールはちょっとあわてながらもその声
に答える。

「あ、あの、私。エルフィールだけど・・・」
「エルフィール?」

ダグラスの声が突然変わった。そして部屋のドアが開かれた。

「あ、なんだよお前こんなところまで来て。なにか用か?」
「え?っと、その」

なんだか予想よりも明るい姿にエルフィールは戸惑った。
(私ってダグラスをなぐさめるためにきたんだよねぇ?)

「まあ、こんなところで立ち話もアレだしな。なか入れよ」
「えっ、うん・・・」

エルフィールが呆然と立っているのを見てダグラスは背中をポンと押した。
「別に変なことしねえよ、ほら何か用事あって来たんだろ?」
「う、うん」
エルフィールは促されてダグラスの部屋に入った。


「うっわあ、すごい部屋!」
「そうか?まあお前、俺の寮来たことなかったからな」
「きれいになってるねえ・・・」

するとダグラスは鼻でふふんと笑って言った。

「お前の工房と同じにするなっての。で?ああ、座れよ」
「あ、うん」

実を言うとどうやって慰めたら良いか分からない・・・。っていうかこの様子だと慰める必要ない
気がするんだけど・・・だとしたら何を話せば良いんだろう。
あ、そうだ
「聖騎士団に新しい人が入るんだって?」
「ああ、国王に聞いたんだな。そうなんだよ、俺がしっかり鍛えてやろうと思ってな。あ!そうい
えばそいつ、お前と同じロブソン村から来たっていうんだよ。
知り合いか?」

エルフィールは新事実にまたまたびっくりしてしまった。

「ええっ?ロブソン村から来たのおっ うそ・・・」
「偶然だな、俺はちょうど寝てたから姿は見てないんだけどよ。まあ昨日来たばっかりだから今
日中には紹介するって言ってたんだけど・・・」
「寝てた・・・って」
「ああ?お前昨日の武闘大会みてねーのかよ」

エルフィールはしまった!と思った。それを慰めるために来たのに・・・。

「み、見たわよ・・・」

しかしダグラスは怒るかと思いきや意外に笑い飛ばして言った。

「もう俺、バカだよなあ!あんな誰かも知らん奴にあっさり負けちまってよお、アハハ」

そんなダグラスを見ていてエルフィールは心が痛む。この友達は本当はすごく傷ついてる。だ
けど私はその傷をいやす言葉が見つからない・・・
アイテムをたくさん作り出す力はあるのに・・・。

「で、でも国王も言ってたけど、一回きりの敗北で負けちゃだめよ・・・ダグラスは、聖騎士団の
隊長じゃないの・・・」

とぎれとぎれになんとか言ったエルフィールの言葉にダグラスは真剣な表情をする。

「エンデルク様があの錬金術士・・・マルローネさんと旅に出てから俺が隊長になったけどよ、イ
マイチ自信がないんだ。1年たってもいまだにそう思う。エルフィールは偉いよな、仕事も順調
みたいだしよ・・・」

やっぱり空元気だったんだ・・・沈んだダグラスの表情を見ながらエルフィールは確信した。

「そんなことないよ・・・私だって失敗ばっかりでまだイングリド先生に怒られてるんだもん」
「そうか・・・まあ、もとから俺なんかに聖騎士団隊長がつとまるわけないと思ってたけどな、ハハ
ハ」

「そんなことないよ!」

笑い飛ばすダグラスを遮るようにエルフィールは立ち上がった。

「エルフィール?」

「私、一年間ずっと見て来たけどダグラスは全然失格なんかじゃない!失敗ばかりの私にくら
べてダグラスは立派だと思う。そんなダグラス以外に誰が聖騎士団隊長がつとまるってゆーの
よ!それなのに・・・それなのに何で一回まけたくらいで・・・」

エルフィールの目から涙があふれた。どうして自分でも泣いてるか分からないくらい・・・

「エルフィール、お前・・・」
「ダグラスのばか、ばかあっ」
「エルフィール!」

部屋を飛び出したエルフィールの後ろ姿を追おうとしたが、腕がまた痛みだしたためダグラス
はそれを躊躇した。
ここで追いかけて傷が広がったら隊長として城の警備にあたることができなくなる。それにあい
つ・・・エルフィールの護衛だって断らなければいけなくなる。

俺はあいつのそばにいてやりたい。立派な錬金術士として店を開くことをマルローネさんに誓っ
たエルフィールだがまだまだ未熟なのだ。
誰かがあいつを守ってあげなくてはいけないのだ。
それを俺が果たしてみせる。
隊長として、あいつを想う一人の男として  

エルフィールは帰り道を後悔しながら歩いていた。

「うう・・・どうしてあんなこと言っちゃったのかなあ・・・」

もともと闘争心のない性格からかあまり怒ることのなかった自分ゆえに、あんな言葉をぽんぽ
ん言ってしまったのにはちょっと驚いた。
そんなことを考えながらぼおっと歩いていたとき・・・

「あら、あなたぼーっとしてちゃ危ないわよ」
「え、あ・・・すみません・・・」
「ん?なーんだ、エルフィールじゃない」
顔を上げるとそこには色あせたマントをはおったロマージュさんの姿があった。
「ロマージュさん・・・」


「へーえ・・・そんなことがあったのね?」

飛翔亭のカウンターでお酒を飲みながら、いつもと違う感じのするロマージュさんは笑いながら
言う。

「あの人も女心をわかってないわねぇ〜」
「女心って言うか・・・なんだかあたしが一方的に話しちゃったって感じで・・・。」
「ふふ、それでいいじゃない?女だってたまにはたくさん不満をいわなきゃ・・・」

ロマージュさんは、くいっとお酒を飲みほしてディオさんにおかわりの仕草をする。
「にしても・・・聖騎士ねぇ。そんなに武闘大会で勝つことがすごいことなのかしら?」
「そりゃそうだろうよ、冒険者や武芸を極めてる者にとってはな」

ディオさんがお酒をロマージュさんに渡しながら低い声で言う。どうやらフレアさんは2階に戻っ
てしまったらしい。やはり長い間カウンターにいると心配なのだろう。

「そういうものかしら?ねえ、あなたはどう思う?」
突然質問を振られてエルフィールは戸惑った。

「どう・・・って、私はあまり気にしないんですけど・・・でもある種の夢じゃないかと・・・」

するとロマージュさんはフフ、と笑って言った。

「そうね、男たちにとっては大きな夢かもしれないわね。だけどあたしはそんな男とは付き合い
たくないわ。だってそうじゃない?それだけが夢だなんて・・・ただのザールブルグだけのお祭り
じゃない」
「そう・・・ですよね。でもダグラスは聖騎士団の隊長なんです。だから勝たなきゃっていうプレッ
シャーがあるんです」
「そう。大変なのね聖騎士団隊長って・・・でもまさかあの錬金術士と旅に出るなんて予想もしな
かったわあ」

「・・・マルローネさんなら、どうしたと思いますか・・・私、ダグラスにどう対応してあげるのが一番
良いんでしょう」

お酒の入ったグラスをゆらしながらロマージュさんはエルフィールの顔をのぞき込んだ。

「あなた、あの人のことが好きなのね?」

「あの人・・・って?」
「そのダグラス隊長よ」
「ええええっ 何言ってるんですか!」

そう言って真っ赤になったエルフィールをディオが興味深そうに見る。

「ほおっ、なるほどな・・・」
「や、やめてください、わたしそんなことに興味ありません!」
「いや、ハッハッハッ。こういう恋愛ネタっていうのは酒のおいしいつまみになるんでな」
「もう・・・私、お店が忙しくてそんなことにかまってる暇なんかないんです、勘違いしないでくださ
い・・・」
「あら、そういうものかしら?本心は・・・別よね?」

目を細めながら笑うロマージュさんを見てなんだか完全に頭がパニックになってしまった。

「わ、わたし帰ります!お店の依頼たまってるんで!」
エルフィールは急いで席を立って酒場を出て行った。

「フフ、あの子シャイなのね・・・」
エルフィールは妙な感情を胸に抱きながら工房へと帰る足を速めた。


(ああ・・・もうワケわかんないよおーっ)
そして工房の看板が見えかけたそのときだった。

「あれっ?」

工房の前に誰か立っているのだ。長い髪をもつ男の人だ。
もしかして何か依頼なのかな?そう思ってその人のところへ走ったが。

「あ、エリー」

その人の口から出た言葉はあまりにもなれなれしいとも言うべきだった。

「ひさしぶりだね、エリー」
しかしその声には聞き覚えが・・・。

「????」
「あれ?忘れたの?ほらフェズだよ・・・ロブソン村の」

一秒間を置いて・・・

「あーっ!」
エルフィールは周りの事気にもせず大声を張り上げた。

「ももももももももしかしてフェズちゃん 」
「ひさしぶりだね、エリー。君が錬金術になるってロブソン村を出てから
5年。すぐに戻ってくるかと思ったけどすごいな。こんなお店まで・・・」
「やだ、これは先生が貸してくれたんだよ・・・それに錬金術だってまだまだだし・・・あ、中入らな
い?こんなところじゃ・・・ゴミが臭いし」

「ふふっ、そうだねエリー。ホントに久しぶりだし」






           まだまだ読んでやる        もうやめた。



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